台湾、軍事力強化に動く 香港の二の舞い恐れ

1958年の中国による金門島砲撃で死亡した兵士を悼む式典で飾られた台湾の旗(8月)PHOTO: ANN WANG/REUTERS

By Chun Han Wong and Joyu Wang2020 年 8 月 31 日 14:32 JST 更新

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 中国政府と香港民主派の衝突で、台湾は中国共産党に対する憤りと懸念を深めており、防衛力を高めようとする試みに新たなエネルギーを注いでいる。

 台湾の蔡英文総裁はここ数週のうちに過去最大の軍事予算を発表し、米国や他の民主主義国と国家安全保障についてより緊密に協力すると言明した。背景には、中国政府が香港で新たな国家安全法を施行したことと台湾海峡で軍事演習を行い台湾を威嚇したことがある。

 蔡氏は27日のオーストラリア戦略政策研究所のオンライン放送で、「香港の後、ますます台湾が自由と民主主義の前線に立っている」と述べた。台湾は防衛を強化している、なぜなら「私たちの現状からすると、強さは抑止と相互に関連しているからだ」という。

 一帯では軍事的緊張が高まっており、中国の人民解放軍が最近、海域パトロールと実戦を想定した軍事演習を実施した。中国軍は米国と台湾への警告を意図したものであることを示唆している。先週、中国政府は演習中に米国が偵察機を送ったと非難し、米国防総省は人民解放軍が最近南シナ海に弾道ミサイルを発射したことに懸念を表明した。

 中国政府は習近平国家主席の下、蔡氏の政府を経済・軍事的圧力で絞めつけようとしてきた。習氏は、国の周縁部で共産党の管理を強化し、台湾を取り込むという同党の目標を無期限に延期はできないと宣言している。

軍事演習を行う台湾軍(7月16日)PHOTO: I-HWA CHENG/BLOOMBERG NEWS

 欧米の批判を無視して香港の部分的な自治をそぎ落とし、反対意見を黙らせようとする習氏の動きは、台湾人の間に自分たちの民主主義が次のターゲットだとの懸念を引き起こしたと地元議員らは話す。

 多くの台湾人が香港での展開を注視している。その結果、「自らを守ろうとする台湾の決意は歴史的高さに達した」と台湾独立を支持する議員の林昶佐(フレディ・リム)氏は述べた。

 民主派が「一国二制度」の終わりだと嘆く中国政府の香港弾圧は、習氏が前任者たちほど世界の意見に抑制されていないことを示すため、台湾にとって凶兆だ。

 ランド研究所の防衛担当シニアアナリスト、デレク・グロスマン氏は「極めて長い間、中国は国際的イメージを大切にすることについて非常に注意していた。そして、平和的な台頭勢力というイメージを維持したかった」と指摘。その上で、「習氏の下でそれが今も当てはまるかどうかは分からない」と述べた。

 また、台湾海峡で武力衝突が起きるリスクは低いが高まっていると付け加えた。

軍事演習中の台湾の戦闘機(7月16日)PHOTO: ANN WANG/REUTERS

 台湾の防衛強化は蔡氏の長年の目標だ。蔡氏の与党は、中国とは別の台湾のアイデンティティーを主張している。中国による侵略を巡る懸念で、その努力はより急がれるものになった。

 台北のシンクタンク、中央研究院がこの春に行った調査では、「中国本土政府は台湾の友人」だとの考えを回答者の73%が拒絶した。1年前は58%だった。3分の2以上が2019年の夏に初めて噴出した香港の抗議活動に支持を表明した。

 中国政府が香港で国家安全法施行を計画していると発表した後にタイワニーズ・パブリック・オピニオン・ファンデーションが実施した6月の調査では、約76%が香港の将来について悲観的に感じていると回答した。

 香港と接している広東省でエレクトロニクス事業をしていた台湾の元起業家、マイケル・チェンさん(62)は、中国が香港を本土と同じように扱っているため、「将来的にはわれわれを同じように扱うことは確かだ」と述べた。「このような事態になると知っていたら、(広東省には)絶対に投資しなかった」